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経絡治療

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

経絡治療(けいらくちりょう)とは、東京鍼灸医学校の校長であった柳谷素霊の教え子である岡部素道井上恵理と自身の治療体験に感動し新聞記者から転進して鍼灸の道に進んできた竹山晋一郎が中心となり作られた経絡の虚実を調整する事を目的とした鍼灸治療における治療術のひとつである。経絡治療を学ぶ団体として、経絡治療学会(旧・新人弥生会)が存在する。

経絡治療のモデルとなったのは、茨城県で西村流の流れを組む八木下勝之助の臨床とされている[1]

また鍼灸師で経絡治療家の上地栄が経絡治療創設の様子を描いたノンフィクション小説『昭和鍼灸の歳月』(1985/5/1)が績文堂出版よりに出版されている。

主な治療内容

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  1. 脈診:治療方針の決定(脈診と同時に問診、腹診)
  2. 本治法:随証療法(手足の要穴に鍼)
  3. 標治法:対症療法
  4. 脈診:予後の判断

本治法

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  • すべての病症を本と標に分け、その本となる病症を五行(五臓)に分類して治療する。
  • 本とは根幹のこと。標とは枝葉のこと。
  • 手足の五行穴を難経六十九難の法則(補母瀉子)を用いて選穴し、五臓の虚実に対してその経絡を補瀉して治療する。

標治法

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  • 体の表面の変化を指先での触診で感じ取ったり、目で見た皮膚の変化などを観察し、その状態に合わせて治療を施していく方法。

脈診法

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経絡治療の診断方法として、特徴的なのは脈診法である。以下のような脈診法が経絡治療の歴史の中で提唱されてきた。

六部定位脈診(脈位脈状診):難経流の臓腑配当がされた三部九候、各寸関尺の部位で脈状診(24脈状を見極める脈診)を行うこと。経絡治療初期の戦前まで提唱されていた。このやり方はのちの経絡治療学会で「脈位脈状診」として提唱されるようになった[2]

祖脈診:難経流の臓腑配当がされた三部九候、各寸関尺の部位で8脈状(脈状の基本的な要素、浮沈・遅数・虚実・滑濇)のみを診察する。六部定位脈診(脈位脈状診)を簡素化したもの。戦後から1964年まで岡部素道が六部定位脈診(比較脈診)を提唱するまで提唱されていた。[2]

六部定位脈診(比較脈診):難経流の臓腑配当がされた三部九候、各寸関尺の部位で虚実のみを診る脈診法。1964年から岡部素道が提唱し始める。脈診の簡素化を図ったことで井上と激論を交わすことになる。この脈診がその後の経絡治療全体に普及していく。[2]

人迎気口診:井上恵理の息子・井上雅文が提唱した祖脈(浮沈・遅数・虚実・滑濇の八脈状)を診察する方法。『三因極一病証方論』(三因方)を基にしており、患者の左手関上1分前のところを人迎、右手関上1分前のところを気口とする。経絡治療で人迎気口診という場合、『霊枢』で行われていた頸部の動脈(人迎)と橈骨動脈(気口)を比較する脈診とは異なる。井上系経絡治療の指導を行っている古典鍼灸研究会と日本鍼灸研究会ではこの方法も指導されている。[3][4]

関連人物

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初期メンバー

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  • 柳谷素霊:東洋鍼灸専門学校の創立者。井上恵理、岡部素道などの師。
  • 井上恵理:経絡治療考案者の一人。接触鍼・散鍼の名手。
  • 岡部素道:経絡治療考案者の一人。新人弥生会(現・経絡治療学会)の初代会長。
  • 竹山晋一郎:経絡治療考案者の一人。雑誌「東邦医学」の編集長。
  • 戸部宗七郎:「医道の日本」創業者。
  • 本間祥白:経絡治療関連の著者。井上恵理の弟子。
  • 福島弘道:視覚障害者が中心となって経絡治療を学ぶ団体として「東洋はり医学会」を創設。
  • 小里勝之:視覚障害者が中心となって経絡治療を学ぶための教育法「小里式」を開発。
  • 岡田明祐:「明鍼会」会長。
  • 小野文恵:井上恵理の弟子。接触鍼の名手。
  • 上地栄:経絡治療創設を題材としたノンフィクション小説「昭和鍼灸の歳月」の作者。
  • 丸山昌朗:黄帝内経研究者。
  • 小川晴通:のちの経絡治療学会副会長。
  • 馬場白光:岡部素道の弟子。経穴力を提唱し、タノミメータを開発した。
  • 西沢道允:鍼灸関連書籍著者。
  • 石野信安:産婦人科医。経絡治療学会顧問。東洋鍼灸専門学校校長。経絡治療夏期大学学長。

戦後の経絡治療家

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  • 岡部素明:岡部素道の息子。経絡治療学会2代目会長。
  • 井上雅文:井上恵理の息子。脈診法・人迎気口診を復古した。
  • 島田隆司:素問の会創設。黄帝内経研究者。
  • 山下詢:奇経治療を研究。
  • 首藤傳明:『経絡治療のすすめ』の著者。「超旋刺」を開発。
  • 南谷汪伯:井上恵理晩年の弟子。散鍼の名手。
  • 岡田明三:岡田明裕の息子。経絡治療学会3代目会長。
  • 篠原孝市:井上雅文の弟子。日本鍼灸研究会主宰。
  • 池田政一:鍼灸師にして薬剤師。経絡治療の教科書「日本鍼灸医学」の主要著者。
  • 浦山久嗣(玖蔵):経絡治療学会理事。「これからの「脈診」の話をしよう」を著す。
  • 橋本 厳:岡田明祐・岡田明三の弟子。経絡治療学会理事。
  • 大上勝行:池田政一の弟子。小児鍼を一般家庭用に「スキンタッチ」を開発する。
  • 中根一:岡田明祐・岡田明三の弟子。経絡治療学会夏期大学講師。
  • 船水隆広:岡田明三の弟子。てい鍼の技術書である『てい 鍼テクニック 船水隆広のTST』を著す。

註釈

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  1. ^ 経絡治療の本治法とされているものは四診によって知り得た五臓六腑経絡の虚実を『難経』六十九難による発想を以て選穴した要穴に鍼術を施し気血のバランスを調整するというものである(日本鍼灸医学より)、
  2. ^ a b c “座談会 臨床に活かす古典 後編”. 医道の日本 Vol.70 (No.9): 172-176. (2011). 
  3. ^ 【東洋ブログ 大希のつぶやき】人迎気口診 脈診”. 東洋医療総合学科Blog. 東京衛星学園専門学校 (2025年9月22日). 2025年11月22日閲覧。
  4. ^ 報告 霊枢勉強会報告 令和五年一月”. 公益社団法人大阪府鍼灸師会. 大阪府鍼灸師会. 2025年11月22日閲覧。

参考文献

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  • 首藤伝明 著『経絡治療のすすめ』医道の日本社(1983年:ISBN 978-4-7529-1042-8
  • 大上勝行 著・池田政一 著『図解 よくわかる経絡治療講義』医道の日本社(2014年:ISBN 978-4-7529-1142-5
  • 岡田明三 監修『名人たちの経絡治療座談会(医道の日本アーカイブス)』医道の日本社(2015年:ISBN 978-4-7529-1147-0