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指標表

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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群論において、の要素に対して表現行列対角和トレース)を与える写像を指標(しひょう、: character)と呼ぶ。与えられた群について、その全ての既約表現の指標を表にまとめたものを指標表(しひょうひょう、: character table)という。

化学結晶学分光学において点群の指標表は、対称性の観点から分子振動を分類したり、2つの量子状態間の遷移が可能かどうかを考える場合に用いられる。

性質

以下では群とは有限群のことを指す。 群 G の既約指標のなす集合を Irr(G) とおく。 群 G の元 g に対して gG共役類、 CG(g) は中心化群を表す。

  • 群の位数と既約指標の次数の二乗和は等しい: |G| = Σ χ(1)2 (直交関係の特別な場合。)
  • 群の既約指標の数と共役類の数は等しい。
  • 線型指標―すなわち χ(1) = 1 なる指標χ―の数と交換子群指数は等しい。
  • 既約指標χの次数 χ(1) は群の位数を割り切る。
  • 群の正規部分群のなすがわかる。より正確に述べると、群 G のすべての正規部分群は既約指標の核 kerχ = { gG | χ(1) = χ(g) } のいくつかの共通部分で表せる。
  • 群の単純性を判定できる。(直前の性質から正規部分群についてわかるため。)

具体例

3次対称群 S3 の指標表

3次対称群 G := S3 の既約表現は同値なものを除くと次で定まる準同型写像 X1, X2, X3 の3つである。

  • X1 : G → GL1(C)
(1, 2)(3) ↦ [1], (1, 2, 3) ↦ [1]
  • X2 : G → GL1(C)
(1, 2)(3) ↦ [-1], (1, 2, 3) ↦ [1]
  • X3 : G → GL2(C)
(1, 2)(3) ↦ , (1, 2, 3) ↦

したがってχi = Tr Xiとおけば G の指標表は次のようになる。 ただし指標は類関数なので値は共役類の完全代表系についてのみ示す。

G = S3 の指標表
g (1)(2)(3) (1, 2)(3) (1, 2, 3)
gG 1 3 2
|CG(g)| 6 2 3
χ1 1 1 1
χ2 1 -1 1
χ3 2 0 -1

位数8の非可換群の指標表

位数8の非可換群には二面体群 D8 = ⟨ r, s | r4 = s2 = 1, rs = r-1 ⟩ と四元数群 Q8の2つの非同型類があるが、その指標表は等しい。したがって一般に指標表から群の同型類を決定することはできない。

G = D8 の指標表
g e r2 r s rs
gG 1 1 2 2 2
|CG(g)| 8 8 4 4 4
χ1 1 1 1 1 1
χ2 1 1 1 -1 -1
χ3 1 1 -1 1 -1
χ4 1 1 -1 -1 1
χ5 2 -2 0 0 0

点群C2vの指標表

E C2 σv σv'
A1
A2
B1
B2
1 1 1 1
1 1 -1 -1
1 -1 1 -1
1 -1 -1 1
Tz z , z2 , x2 , y2
Rz xy
Ty , Rx y , xz
Tx , Ry x , yz

関連項目

参考文献

  • Alperin, J. L.; Bell, Rowen B. (1995), Groups and representations, Graduate Texts in Mathematics, 162, Berlin, New York: Springer-Verlag, ISBN 978-0-387-94525-5, MR1369573 
  • James, Gordon; Liebeck, Martin (2001). Representations and Characters of Groups (2nd ed.). Cambridge University Press. ISBN 0-521-00392-X