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指事

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
指事文字から転送)

指事(しじ)とは、六書の一つで、抽象的な符号を用いて字義を指し示す造字法である。

概要

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後漢許慎説文解字・叙』の説明では、「視而可識,察而見意[注釈 1],“上”、“下”是也」と説明されている。「視而可識」は見れば何を指すかが分かることを意味し、「察而見意」はよく観察すればその意味が理解できることと解釈される。[1]

この方法で作られた漢字を「指事字」あるいは「指事文字」と呼ぶ。『説文解字・叙』では「上」や「下」がその例であるとされている。「上」は基準線となる横画の上側に点(または短線)を書き、「下」は基準線の下側に点を書くことで語義を描写している。また、「木」の下部に点を加えて根本を示す「本」、「刀」の刃の部分に点を加えて刃先を示す「刃」など、既存の象形字に特定部分を指示する符号を加えた文字もある。[2]

それに加えて、「一」「二」「三」「小」のような特定の事物ではなく抽象物を象ったり抽象概念を描画した文字や、「大」のような物体名詞ではない言葉を特定の事物で表現した文字など、上記とは異なるパターンの文字も指事字に含まれるとする考えがある[3][4]。『説文解字』で「指事」と明記されているのは「上」と「下」のみであるため、これらが指事字とされるかどうかは明確ではない。

一方、六書のもとの定義から離れて現代の漢字研究の観点で言えば、指事や会意による字を象形字と区別することがあまり有用でないか曖昧となる場面がある。ゆえに近年提案されているより現実的な漢字の造字法や構造原理の分類では、象形・指事・会意をひとまとめとし、それらを区別するとしても下位区分として扱うものが多い。[5][6]

脚注

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注釈

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  1. ^ 現存する『説文解字』のテキストでは「察而可見」となっている。『説文解字』の六書の説明文は全て4文字目と8文字目が韻を踏む八字句となっているが、現行本に従うと指事の説明のみ「識」と「見」で韻を踏まなくなってしまう。段玉裁顔師古が『漢書・芸文志』に付した注に基づいて「察而見意」と改めた。この意見に従えば「識」と「意」で韻を踏むようになる。

出典

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参考文献

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  • 裘錫圭 (2013). 文字學概要(修訂本). 北京: 商務印書館. ISBN 978-7-100-09370-5 
  • 黄天樹 (2014). “商代文字的構造與“二書”説”. 黄天樹甲骨金文論集. 北京: 學苑出版社. pp. 34–53. ISBN 978-7-5077-4593-1 
  • 沙宗元 (2008). 文字學術語規範研究. 合肥: 安徽大學出版社. ISBN 978-7-81110-393-9 
  • 牛遠 (2013). 《説文解字》指事字比較研究 (Master's thesis). 山西師範大學.{{cite thesis}}: CS1メンテナンス: ref=harv (カテゴリ)

関連項目

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